乳腺腫瘍内科

一般的な乳房の問題の概要

 しこり、乳房の痛みや圧痛、乳頭分泌物や乳頭陥没、乳房の皮膚の変化などは、思春期の女性から高齢の女性まで、あらゆる年齢の女性によく見られます。乳房に新たな問題が見つかると不安になるかもしれませんが、ほとんどの乳房の問題は乳がんが原因ではありません。

ここでは、ご自身や医療従事者が遭遇する可能性のあるものも含め、最も一般的な乳房の問題についていくつか解説します。また、一般的な乳房の症状の評価と治療方法についても解説します。

 

★乳房のしこり

 ご自身や医療提供者は、乳房を視診または触診することで、しこりに気づくことがあります。触診だけでは、しこりが乳がんによるものかどうかを判断することは困難です。20歳から50歳までの女性の乳房のしこりのほとんどはがんではありませんが、新たに乳房にしこりが見つかった場合は、必ず医療提供者による診察を受け、さらなる検査が必要かどうかを判断する必要があります。

●評価 — 乳房検査後、乳房のしこりを評価するための最適な検査は、年齢によっても異なります。

 

・30歳未満の女性 —  

 30歳未満の方で月経前にしこりが見つかった場合は、月経終了後に再度乳房検査を受けることを勧められることがあります。この年齢層では、乳房のしこりはホルモンの変化によって引き起こされることが多く、月経周期が終わると消えていきます。生理が終わってもしこりが消えない場合は、しこりが液体で満たされているか固形物であるかを判断するために、乳房超音波検査や穿刺吸引細胞診などの追加検査が必要になる可能性があります。マンモグラフィーは通常30歳未満の女性には行われませんが、超音波検査で十分な情報が得られない場合はマンモグラフィーが推奨される場合があります。

・30歳以上の女性 —  

 30歳以上の女性で乳房に新たなしこりが見つかった場合は、診断用マンモグラフィーと、通常は超音波検査も受ける必要があります。診断用マンモグラフィーでは、より詳しく異常と思われる部位を調べます。多くの場合、比較のために反対側の乳房のマンモグラフィーも撮影されます。マンモグラフィーや超音波検査でしこりが疑わしい場合は、通常、乳房生検が推奨されます。

 

★乳房の痛み(乳房痛)

●あなたへの質問

□ 乳房、乳首、または腋窩のどこに痛みがありますか?

□ 痛みは両側にありますか?

□ 痛みはどんな感じですか?

□ 痛みはどのくらいひどいですか?

□ 閉経前の場合: 周期の半ばと月経前にピークを迎える、相動的な症状ですか?

□ 経口避妊薬やホルモン補充療法の使用と関連がありますか?

□ それは最近の出産、流産、または中絶後に始まりましたか?

□ それは胸筋群の激しい、あるいは反復的な使用に関係しているのでしょうか?

□ 首、背中、肩に同時に問題がありますか?

□ 発熱や紅斑などの全身症状またはその他の局所症状はありますか?

□ 最近胸部に外傷の履歴はありますか?

□ 痛みはあなたの日常生活の活動に影響しますか?

 

●乳房痛の要約と推奨事項

・疫学 — 

 乳房痛(乳房痛)は女性によく見られますが、身体的または画像診断による裏付け所見がない限り、乳がんの症状として現れることは稀です。乳房痛のみを呈する患者が乳がんを発症するリスクは非常に低く、0.5~3.3%です。このリスクは、乳房痛のない女性と変わりません。アジア社会では乳房痛はそれほど一般的ではなく、女性の5%程度です。

・病因 — 

 乳房痛は、周期性、非周期性、乳房外性に分類されます。医学的には、周期性乳房痛と非周期性乳房痛は同様に治療されるため、乳房外性乳房痛と真の乳房痛を区別することがより重要です。

 

●病因分類

周期性 —

 3分の2、月経周期の内分泌変動と関連しており、通常は月経開始の1週間前に発症します。多くの場合、両側性で、乳房の上外側4分の1で最も重度

非周期性 —

 最大3分の1、大きな垂れ乳/食事・生活習慣(高脂肪食、喫煙、カフェイン摂取)/ホルモン補充療法(3分の1に発症)/乳房嚢胞(特に発症が急速な場合)/乳管拡張症(発熱、分泌物、および脂質物質が乳管壁を穿通)/乳腺炎・乳房膿瘍(痛み、腫れ、赤み)/炎症性乳がん(痛みと、急速に進行する圧痛を伴う硬く腫れた乳房を呈する。乳房の皮膚は熱を持ち、厚くなり、「オレンジ皮状皮膚」)/化膿性汗腺炎(乳房結節、排液、疼痛)/その他(妊娠、血栓性静脈炎「モンドール病」、外傷、大嚢胞、過去の乳房手術、過去の放射線治療、薬剤「ホルモン剤、一部の抗うつ薬、心血管薬、抗生物質」)

乳房外痛 —

 胸椎3-5肋間神経痛、胸壁痛:大胸筋/小胸筋の損傷/肋軟骨炎(典型的には第2~第5肋軟骨接合部)/肋骨のずれ/クリック音/関節炎

 脊椎および傍脊柱障害:頸部関節炎(高齢女性に典型的)

外傷 —

 シートベルトの締め付け/子供やペット/暴力/乳房または前胸壁への局所的な外傷/胸膜炎による肋間神経痛/胆嚢疾患/虚血性心疾患/開胸後症候群

 

評価 —

 乳房痛を呈する女性は、画像検査や臨床的に判断する前に、前述のあなたへの質問のチェックと身体診察を受ける必要があります。乳房の痛みがあるものの身体検査で疑わしい所見(腫瘤、皮膚の変化、乳頭からの血分泌物など)が見られない女性は、症状と年齢に基づいて乳房画像検査(当院では超音波検査)を行います。

  • 周期的または両側の全体的な乳房痛には、超音波検査をする場合もあります。
  • 非周期性、片側性、または乳房外ではない局所性の乳房痛は、根本的な病因を解明し、乳がんを除外するために乳房画像検査を受けることが有益となる場合があります。30歳未満の女性は超音波検査、30歳から39歳の女性はマンモグラフィーの有無にかかわらず超音波検査を受けることを推奨します。40歳以上の女性は超音波検査に加えマンモグラフィーの追加検査(当院では外部に紹介)を勧めることがあります。

治療 —

 患者が乳がんではないという確信を得ることで、乳房の痛みを訴える欧米女性の最大 85 % は十分な緩和が得られます。15 % の女性は、痛みが日常生活に支障をきたすため、さらなる治療が必要になります。

 乳房の痛みは薬物療法で治療されます。乳房に病変がない場合は手術の適応はありません。

  • 乳房痛の第一選択治療として、身体的サポート、鎮痛薬のアセトアミノフェン、および/または非ステロイド性抗炎症薬(ロキソプロフェンやイブプロフェンなど)や日本では漢方薬が使用されます。
  • 閉経後の更年期を治療するためのホルモン療法は、患者と相談の上、可能であれば減量または中止する必要があります。経口避妊薬が周期性乳房痛を引き起こすか、あるいは軽減するかは明らかではありませんが、経口避妊薬レジメンにおけるエストロゲンの投与量を減らすことは、乳房痛のコントロールに効果的である可能性があります。
  • カフェイン断ちや月見草オイルなどの治療法は、厳格なプラセボ対照試験によって効果が証明されていないものの、これらの治療法は一般的に無害であり、一部の患者の痛みを軽減する可能性があるため、試してみる価値があるかもしれません。

予後 —

 一般的に、乳房痛は自然寛解と再発を繰り返す傾向があります。予後は様々であり、痛みの発症年齢や、痛みが周期性か非周期性かによって左右されます。痛みの緩和は自然に起こる場合もあれば、妊娠や更年期といったホルモンを介した出来事に関連する場合もあります。

 

★乳頭分泌物

 両乳首から乳汁が分泌されることはよくあり、特に出産後1~2年はよく見られます。女性では甲状腺機能低下症、特定の薬剤の副作用、あるいは脳の一部である下垂体の腫瘍化によるプロラクチンと呼ばれるホルモンの上昇によって、両乳房から乳汁が分泌されることもあります。

 体内の他の管と同様に、乳管も分泌物を作り、運びます。多くの女性は、少量の黄色、緑、または茶色の分泌物を絞り出す(押し出す)ことがあります。これはしばしば「生理的」分泌物と呼ばれ、心配する必要はありません。生理的分泌物には血が混じっていません。

 自然な乳頭分泌物(圧迫しなくても出る分泌物)や透明(黄色や麦わら色ではない)または血の混じった乳頭分泌物は、乳房内の異常な増殖によって発生することがありますが、頻度は低いものの乳がんによって発生することもあります。

 乳頭分泌物が見られる女性は、必ず医療従事者による診察を受けてください。マンモグラフィー、乳房超音波検査、乳房MRI、そして乳管造影検査(検査出来る医療機関は限られます)などが推奨される場合もあります。

 

★陥没乳首

 多くの女性は、生まれつき乳首が自然に内側に折り込まれ、また外側に突き出ている状態です(「二分乳首」「裂け乳首」「スリット状乳首」と呼ばれることもあります)。授乳後やホルモンバランスの変化によって、このような状態になる女性もいます。これは真の陥没乳首ではなく、正常な変化であり、心配する必要はありません。

 これまで乳首が常に出ていたのに、明らかな理由もなく陥没し始めた場合は、医療提供者に診察を受ける必要があります。乳首の陥没の原因のほとんどは心配する必要はありませんが、まれに乳がんの初期症状である場合もあります。新たな乳首の陥没は、通常、触診、超音波検査とマンモグラフィーによる検査で評価されます。

 

★乳房の皮膚の変化

 乳房やその周辺に皮膚トラブルが発生することがあります。その一部には、かゆみ、鱗屑(りんせつ;剥離した角質が皮膚表面に蓄積した状態、頭皮ではいわゆるフケ)や痂皮(かぶれ;かさぶた)、へこみ、腫れ、赤み、皮膚の色の変化などがあります。これらの変化のほとんどは深刻な乳房の問題によるものではありませんが、乳房の皮膚トラブルが数日以内に改善しない場合は、検査を受けることが重要です。

 乳房の皮膚変化のより深刻な原因としては、パジェット病や炎症性乳がんといった、あまり一般的ではない乳がんが挙げられます。また、発疹、ほくろ、嚢胞(のうほう;液体の袋)、湿疹、皮膚感染症といった、より一般的な皮膚疾患も乳房の皮膚に発生することがあります。

 乳房の皮膚変化の評価には通常、乳房検査が含まれ、マンモグラフィー・超音波検査が含まれる場合もあります。診断を確定するために皮膚生検(外部に紹介)が必要になる場合もあります。

 

★いつ医療機関に受診すべきか?

 乳房に新たな問題が見つかった場合は、数週間以内に医師の診察を受けてください。乳房の問題は通常は緊急ではありませんが、診察を数ヶ月遅らせると、問題が悪化する可能性があります。

 場合によっては、この評価だけで十分なこともあります。また、乳腺専門医いる病院による更なる検査や評価を勧められる場合もあります。日本ではほとんどの乳腺外科医は、外科的治療と非外科的治療の両方の乳房疾患を治療しているため、がんを疑わなければ必ずしも手術が必要なわけではありません。但し、薬物療法は施設により腫瘍内科医が担当する場合もあります。放射線治療は放射線治療医が担当します。

 初回検査で問題の兆候が見られなかったとしても、ご心配な場合は、当院院長にご相談ください。追加の検査、定期的な経過観察、または乳腺専門医のいる病院への紹介が推奨される場合があります。

 

★当院で可能な乳房超音波検査とは何ですか?

 これは乳房組織の画像を作成する画像検査です。超音波検査では、音波を用いて体の内部の画像を作成します。

 以下の場合、乳房超音波検査を勧めます。

●マンモグラフィーで異常が出た —

  マンモグラフィーは乳がん検診で主に用いられる検査です。マンモグラフィー検査を受けて異常が出た場合には、フォローアップ検査として乳房超音波検査を受ける場合があります。

●乳房組織の密度が非常に高い(デンス ブレスト) —

  マンモグラフィーでは正常でも、乳房の密度が非常に高いことが示された場合は、超音波検査をする場合があります。

●生検の必要性 —

  他の検査で異常が見られた場合、乳がんの有無を確認するために当院では生検を乳腺の専門科のいる病院に紹介することがあります。この検査では、医師が針を使って少量の組織サンプルを採取し、顕微鏡で観察します。超音波検査により、医師は生検の際に針を刺す場所を特定することができます。

●乳房にしこりがある —

  乳房超音波検査では、しこりが固形か液体で満たされているかがわかります。固形のしこりは、がんの兆候である可能性があります。

 

★乳房超音波検査の準備はどうすればよいですか?

 何か特別な準備が必要かどうかは、医師または看護師から指示されます。

 問診票にあなたの「健康歴」について記載お願いします。これには、現在または過去に経験した健康上の問題、過去の手術、服用している薬などが含まれます。

検査前にいていただきたいこと:

  • 検査当日はパウダーやローションの使用はお控えください。
  • 脱ぎやすいシャツなどの衣類を着用してください。

乳房超音波検査では何が行われますか?

乳房超音波検査を受ける際に:

  • 上半身を脱ぎ、ネックレスも外してください。
  • 診察台に横になっていただきます。
  • 超音波検査を行う医師は、乳房にジェルを塗ります。これは超音波画像をより鮮明にするためです。
  • 超音波検査を行う医師は、「トランスデューサー」を皮膚に当て、乳房の上を動かされます。トランスデューサーは「プローブ」とも呼ばれ、乳房組織に音波を送り、画像を作成します。

 

★乳房超音波検査の後は何が起こりますか?

 当院では院長が超音波検査を行い、当日結果をお伝えします。診察終了/経過観察/乳腺専門医のいる病院に紹介等の指示をいたします。

 

★乳房超音波検査のリスクは何ですか?

 考えられるリスクには以下が含まれます。

●偽陽性 —

 乳房超音波検査では、「偽陽性」の結果が出ることがあります。これは、実際にはがんではないのに、がんがあるかもしれないとする結果です。これは不必要な不安を引き起こし、痛みを伴うこともある生検などの追加検査につながる可能性があります。

 

★当院では出来ませんがマンモグラフィーについて

●異常マンモグラム

 スクリーニング(初回)マンモグラフィーで異常が見つかった場合、心配になるかもしれません。幸いなことに、マンモグラフィーで異常が見つかった女性のほとんどは乳がんではありません。マンモグラフィーで異常が見つかる原因は、腫瘤、カルシウム沈着物の集積(石灰化)、その他の要因が考えられます。正常な乳房の構造が重なり合って異常に見える場合もあり、実際には何もなくても異常に見えることがあります。

 スクリーニングマンモグラフィーで異常が見つかった場合、発見された異常の種類に応じて次のステップが移ります。

  • 異常が良性(がんではない)である可能性が高い場合は、6ヶ月後にマンモグラフィー・超音波検査によるフォローアップ検査を受けることを勧められることがあります。
  • マンモグラフィーで不明瞭な部分や異常が見つかった場合は、次に診断用マンモグラフィーなどの追加画像検査を行います。診断用マンモグラフィーでは、異常と思われる部分を選択的に調べます。様々な角度から撮影したり、画像を拡大したり、特定の関心領域に焦点を絞ったりすることができます。多くの場合、診断用マンモグラフィーでは異常が良性(がんではない)であることが示され、それ以上の検査は必要ありません。しかし、診断用マンモグラフィーでがんが疑われる場合に、乳房生検が推奨されます。
  • 場合によっては、マンモグラムで見つかった異常をさらに評価するために、磁気共鳴画像法 (MRI) などの他の種類の乳房画像検査が必要になることがあります。

 

★乳がんの確定診断するための検査

当院では行っていませんが、専門病院に紹介して行う検査

●超音波検査と穿刺吸引法 —

 しこりが液体で満たされているか固形物であるかを判断するために、乳房の超音波検査が推奨される場合があります。穿刺吸引法(針と注射器を用いて液体を吸引する方法)も選択肢の一つです。

  • 液体が溜まった嚢胞(のうほう;cyst)は通常、がんによって引き起こされるものではなく、不快感を伴う場合にのみ治療が必要です。液体が溜まった嚢胞の治療には、必要に応じて針で液体を排出することが一般的です。
  • 固形または「複雑」(液体と固形が混在する)乳房結節のある女性は、通常、針や手術生検を受けることが推奨されます。

●乳房生検 —

 新たに生じた乳房のしこりを詳しく診断するために、乳房生検が推奨されることがよくあります。生検の前に、乳房超音波検査、マンモグラフィー、または穿刺吸引検査が推奨される場合があります。

 医療従事者がしこりを触知できる場合、針を使ってその部位の生検を行うことができます。生検では、細胞の一部を採取する(穿刺吸引法)場合もあれば、より一般的には少量の組織サンプルを採取する(コア針生検)場合もあります。

 異常が容易に触知できないものの、超音波検査では確認できる場合は、病変を正確に標的とするために、超音波ガイド下で針生検を行うことができます。針生検では、異常部位に針を刺入し、組織サンプルを採取します。採取した組織は、後に顕微鏡で観察します。生検部位の識別とモニタリングのため、通常はマーキングクリップが装着する場合もあります。

 異常がマンモグラフィーでのみ確認できる場合、その部位を生検する方法は 2 つあります。

 針生検は、局所麻酔下でマンモグラフィーや超音波ガイドを用いて行われることがあります(定位生検と呼ばれます)。定位生検は、マンモグラフィー病変に対する最適な治療法であり、一部の患者では手術を回避できます。手術が必要な場合は、適切な手術計画を立てるために、まず針生検を行うことが重要です。

 場合によっては、生検の代わりに外科手術を行う必要があります。外科的生検は通常、より侵襲性の低い方法で生検が行えない場合にのみ推奨されます。